「健康のためには頭寒足熱で」
「頭寒足熱で風邪をひかない」
など、「頭寒足熱」を守っておくのが良いとされていますよね。
私は昔から母に耳タコなくらい聞かされので、馴染み深い言葉なのですが、
最近では耳にすることがないので、正しい意味を知らない!という人が多いという話を小耳に挟みました。
ということで、ここでは、
- 頭寒足熱の正しい意味
- 頭寒足熱はどうして良いのか、その効果とは!
- 頭寒足熱は大人だけでなく、赤ちゃんや子供にも良いの?
などなど、頭寒足熱について、改めて調べ直してまとめてみました。
頭寒足熱とは!正しい意味は?
この言葉を作ったのは、江戸時代の蘭学者。
オランダの医学書に記されていた健康の秘訣を、ギュッと縮めて「頭寒足熱」と表現しました。
現代の感覚からすると、「頭冷足温」と解釈してもいいでしょうね。
頭寒足熱よりも望ましい状態に近いので、最近ではこういった表現をする方もおられるようです。
ところで、先の説明に「おや?」と感じませんでしたか?
「頭寒足熱」という言葉の響きから、中国や日本で古来から伝わる東洋医学の用語という印象があったのは私だけでしょうか。
文豪・夏目漱石も、あの『吾輩は猫である』の中で、「頭寒足熱は延命息災の徴と傷寒論にも出ているとおり」と書いています。
※『傷寒論』は東洋医学の古典です。
ところが、東洋医学には「頭寒足熱」という健康法はないそうです。
オランダの名医の書物に
18世紀のオランダに、ヘルマン・ブールハーフェという名医がいました。
ブールハーフェは、臨床教育を最初に行った人物で、多くの医師を育てたそうです。
ブールハーフェが亡くなったとき、『医学における重要な秘法』という書物が残されました。
競売に出されると、なんと2万ドルで落札。
当時の2万ドルですから、現代なら億を超えるほどの値段ですね。
いったい、どんな秘法が書かれていたのでしょうか。
ひょっとして、不老長寿の秘密かも……?
と思いきや、表紙をめくった最初のページ(扉)には
「頭は冷やし、足は暖かく、腸は空に」と記されていました。
そして、残りのページは、
なんと…
驚くことに…
「白紙」。
落札した人は、超ショックですね。
ただこの話、ちょっと出来すぎている感じもありますが。
とはいえ、ブールハーフェは名医でしたので、その残した言葉が何らかのかたちで蘭学者に伝わったのかもしれません。
蘭学者は、昔から日本に伝わる医学の「寒熱」の考えを反映させて、頭寒足熱と表したのでしょう。
ところが、ブールハーフェの言葉も、元ネタ(?)がありました。
オールド・パーといえば、ウイスキーの銘柄で知られていますが、152歳まで生きたといわれるイギリス人の名前にちなんでいます。
オールド・パーは長寿の秘訣を尋ねられたとき、
“Keep your head cool by temperance and your feet warm by exercise.”
と答えたそうです。
文字どおりに意味をとると、「頭は冷たく、足は運動して温かくしておけ」となり、頭寒足熱に近いですね。
ただし、
“keep head cool by temperence”は、「(頭は)冷静に、節度を保って」
“keep feet warm”は、「自分の足を動かして行動する」
と読むこともでき、健康法というより人生訓に近いニュアンスもあります。
なお、オールド・パーの言葉には続きがあって、
「早起き、早寝、豊かになりたければ、よく目を見開いて、口は閉じておく(よく観察して、無駄口をしない)」となっています。
やはり人生訓としての言葉と考えてよさそうです。
オールド・パーの言葉がブールハーフェに誤訳され、さらに蘭学者によって誤訳されて、今に至る、ということなんですね。
じゃぁ健康にな~んの関係もないのか?というと、そうでもないようです。
次に紹介していきますね。
頭寒足熱はなぜ良い?その効果とは?
実は人生訓らしい「頭寒足熱」。
言葉の由来には東洋医学は関係ないようですが、病気の捉え方としては、共通するものがあります。
「のぼせる」ことを上気ともいいますが、病気のときには頭に「気」が過剰に集まる、と東洋医学では考えます。
「気がたくさん集まるので、熱が出る、頭が痛む」ということですね。
そこで、「気」を下すために、頭を冷やしましょう、という処置をします。
先の『我輩は猫である』に使われている例でも、のぼせを取るための方法を述べている中に、「頭寒足熱」を使っているんですよ。
また、手足の冷えも病気の元と考えるため、こちらは温めるようにしましょう、ということになります。
現代の医学の観点からの考え方
東洋医学の考えは分かりましたが、現代の医学の観点から見ても、良いのか、効果があるのかが最も知りたいところだと思います。
頭寒の意味とは
「のぼせる」というのは、「ストレスによって交感神経が常に優位のままで不調をきたしている」というのが一つ考えられます。
交感神経は、運動したり何か行動をする際、あるいは緊張する場面などで活発に働きます(優位になる)。
通常は、休んでいるときやリラックスしているときに副交感神経が働くのですが、
現代は、仕事や生活習慣によって、交感神経が優位なまま、つまりはリラックスできないという状態にさらされがちです。
そのため、常にイライラしてしまうだけでなく、様々な身体不調の原因となります。
そういう意味では、直接に頭を冷やすというよりも、こうした交感神経が優位な状態を避ける、まさに「頭をクールに保つ」ということと考えた方がいいかもしれません。
もちろん、暑いときには熱中症などを防ぐために、直接に頭を冷やすことが必要ですが、「頭寒」の場合はそれとは違った意味でしょうね。
足熱について
足熱についても、「手足を温める」というより「手足の冷えを取る」と考えます。
手足が温かいということは、血行が滞りなく巡っている状態です。
副交感神経が優位のとき、すなわちリラックスしている状態では、血管が拡張して血行が良くなっています。
冷えを取るというということは、副交感神経が適切に働く状態にする、ということですね。
「頭寒足熱は健康にいいんだ」と、頭に氷嚢(ひょうのう)を乗せて足をヒーターであぶる、なんて極端なことはしてはいけません。
「頭に熱をこもらせない、手足の冷えを取り除く」というのが、適切な意味だと知っておきましょうね。
頭寒足熱!赤ちゃんや子供にも当てはまる?
大人なら、勉強や仕事で頭がのぼせる、夏はクーラーで、冬はじっとしているだけでも足元が冷える、ということはあります。
では、赤ちゃんや子供も「頭寒足熱」にしておくのが良いのでしょうか。
わざわざ頭に貼るタイプの冷却材を使ったり、寒くないのに靴下を履かせたり、ということをしなくても大丈夫なのは、大人と同じですね。
赤ちゃんの場合は、頭や顔の周りは風通しが良い、空気がこもらない状態に保ってあげるのが良いですよ。
親御さんが手で触れてみて、汗ばんだり熱っぽくないか確かめて、ちょうど良い温度に保つように気をつけてあげます。
また、手足を温かく保っておくことで、副交感神経が優位になり、スヤスヤと眠ってくれるでしょう。
そういう意味では「頭寒足熱が良い」というのは当てはまります。
小学校に上がるくらいになってきたら、大人と同じように考えてもいいでしょう。
「子供は風の子」なんていう言葉もありますからね。
冬でも外で元気に遊んできて手足が冷たくても、すぐに温まっちゃいます。
注意したいのは、頭がのぼせるようなことがあるとき。
お風呂でのぼせてしまったり、夏には大人よりも熱中症になる危険が高いので、注意が必要です。
例えば、ストーブの近くに頭を置いて寝転がっている・・という場合も、頭がのぼせてボォ~っとしてしまいますよね。
そうなると「宿題(勉強)しなさい!」と言っても、頭が冴えず捗らないということになります(笑)
やはり頭はクールに保っておくのが良いのかもしれませんね。
頭寒足熱は外国由来の言葉
「頭寒足熱」は、てっきり日本古来の生活の知恵かと思っていましたが、実は外国由来の言葉とは、面白いものですね。
そして、単に「頭を冷やして足を温める」というだけではなく、「冷静沈着で自ら行動せよ」という人生訓でもありました。
健康法としても理にかなっているのは、洋の東西を問わず、昔の人の知恵にはあらためて感心してしまいます。
今回、いろいろと調べてみて、私の想像とはかなりイメージも観点も違った「頭寒足熱」という言葉。
あなたはどうでしたか?